HOME MEAL MEISTER 02農畜水産物の生産と流通
16-遺伝子組換え作物
1.遺伝子組換え技術
遺伝子組換え技術は、簡単に言えば分子レベルでの育種技術である(☞2章-11参照)。遺伝子(DNA)とたんぱく質は共通性の高い化学構造をしているので、理論的にはあらゆる生き物の間で遺伝子を組み換えることができる。遺伝子組換え技術は、人間に有用な特性をもたらす遺伝子を特定し、それらを人為的に作物に導入し、目的の性質を作物に付与する技術である。従来の交配では、目的とする品種を作出するために長い時間が必要であったが、遺伝子組換え技術では品種改良に必要な時間の短縮が可能であり、導入する遺伝子の機能が明らかで、異種の遺伝子でも利用可能であることから、重要な品種改良技術の1つとして実用化されている。
現在、遺伝子組換え作物を商業的に栽培している国は28カ国ある。日本で遺伝子組換え作物の商業栽培が認められている作物はとうもろこし、大豆はじめ9作物(159品種、平成28年6月現在)であるが、現在商業栽培されているのは、食用はなく観賞用の「バラ」のみである。しかしながら、実際には日本にも輸入されている。遺伝子組換え作物のみの輸入量の統計は存在しないが、輸入国の遺伝子組換え作物栽培割合(表1)から考えると、輸入されるとうもろこしは78%以上、ダイズ、ナタネ、ワタは90%以上が遺伝子組換え作物であると推測できる。
表1 主要穀物の輸入状況と遺伝子組換え農作物の栽培状況(2015年)
(出典:農林水産省農林水産技術会議事務局「遺伝子組換え技術等の先端技術の農業・食品への応用について」)
2.遺伝子組換え作物の有用性
(1)農業生産性の向上
作付けの最も多い遺伝子組換え作物は、除草剤耐性大豆と害虫抵抗性とうもろこし(Btコーン)である。
除草剤耐性大豆には、生育に必要なアミノ酸と生合成する経路(酵素)をブロックして植物の生育を止めてしまう除草剤に対して、その経路がブロックされないような酵素を産生する遺伝子が組み込まれている。そのため、雑草は除草剤によって枯れるが、除草剤でも生育を阻害されない大豆は生育を続ける。
害虫抵抗性とうもろこしには、メイガなどの害虫が消化できないBtたんぱく質を産出する遺伝子が組み込まれている。そのため、このとうもろこしを食べた害虫はBtたんぱく質を消化することができずに餓死し、とうもろこしを害虫から守ることができるというものである。いずれも、栽培者にとって有益なもので、農業生産の省力化や生産性の向上が実現している。
(2)消費者にとってのメリット
消費者にとってメリットのある遺伝子組換え植物も研究中である。花粉症を緩和する米、抗酸化物質であるリコピンを多く含むトマト、ジャガイモの芽に含まれる食中毒原因物質であるソラニンを含まないじゃがいもなどである。また食用ではないが、花粉の生成を抑制したスギなども研究されている。
3.遺伝子組換え作物の安全性評価
わが国では、海外で開発されたものを輸入する場合も含め、遺伝子組換え作物を利用するには、環境(生物多様性)に与える影響と、それを食用とする人間や家畜への健康面での影響の二面から評価をすることが義務付けられている。
遺伝子組換え作物については、新しい技術として不安を訴える声も多いが、その技術と安全性の評価の仕組みをきちんと理解した上で選択して欲しい。
図1 遺伝子組換え農作物の安全性評価の仕組み
(出典:農林水産省「遺伝子組換え農作物の現状について」)