HOME MEAL MEISTER 02農畜水産物の生産と流通
23-日本の水産物の流通
1.水産物流通チャネルの構成と特徴
水産物の主な流通チャネル*1は図1の示す通りである。他の食品流通に比べると、以下のような特徴がある。
第1、きわめて多様な流通チャネルが存在している。多様な流通チャネルは性格の異なる市場流通と市場外流通との二つの流通形態に分けられる。前者は産地市場や消費地市場を経由する流通経路であり、後者はそれらを経由しない流通経路である。
第2、特に市場流通においては産地市場と消費地市場という二つの市場(いちば)を経由し、他の商品の流通チャネルに比べてきわめて長くて複雑な経路を辿る。
第3、産地市場や消費地市場を経由する多段階流通であるために、図2が示すように、市場流通での水産物は、計5回の価格形成が行われる。すなわち、①生産者手取価格(P1)、②産地市場価格(P2)、③消費地市場価格(P3)、④仲卸価格(P4)、⑤小売価格(P5)の5つである。しかも、価格の決定方法は、セリ・入札取引*2だけではなく、相対*3や清算、定価など多様である。そのいずれの段階においても漁業生産者は価格決定にかかわることができない。
第4、卸売市場流通機能を担う経済主体の機能が細かく制限されて、その結果として経営主体の性格も手数料商人*4(卸売業者)と差益商人*5(産地仲買人、仲卸業者、小売業者等)に分けられ、その性格は大きく異なっている。
*1 流通チャネル
商品が生産者から消費者まで届けられる際の一連の所有権の移転を伴う経路の総称。
*2 セリ・入札取引
卸売市場における特徴的な売買仕法。買手が値段を競り上げていく「上げセり」や売手が値段を下げていく「下げセリ」、瞬時に最も高い値段を提示した買手を決める「一発セリ」などがある。入札とは購入希望者が金額を書いた札を売手へ提出し、最も高い値段を提示した者を買手とする方法。
*3 相対
セリや入札を介さずに、売買の当事者間で値段を協議して行われる取引のこと。
*4 手数料商人
出荷者から仕入れた商品を他の売買参加者へと委託販売し、その際に発生する手数料によって利益を得るような業態の総称。
*5 差益商人
流通チャネルの中で、川上から川下へと商品が流通する際に仲介役を担う業者のこと。発生する差益を粗利潤とすることからこのように呼称する。
2.卸売市場機構と取引原則
1)卸売市場機構
市場流通は、1971年に成立する卸売市場法によって整備された卸売市場を経由する流通形態であるので、制度流通とも呼ばれている。卸売市場法によって卸売市場は大きく中央卸売市場、地方卸売市場、そしてその他の市場の3種類に分けられている。「中央卸売市場」は基本的には人口20万人以上の市が、農林水産大臣の認可を受けて開設される。「地方卸売市場」は、卸売場の面積が一定規模以上のものについて、都道府県知事の許可を受けて開設される。「その他の市場」は、上記中央卸売市場および地方卸売市場以外の卸売市場とされている。多くの漁協が運営する荷捌き所が、この「その他の市場」に該当する。
2)取引原則
卸売市場法では、その基本理念である「公開・公平・公正」を追求するために、市場業者に対して様々な取引規制を課している。代表的な取引原則として、①委託集荷の原則(=買付集荷の禁止)、②受託拒否の禁止、③差別的取り扱いの禁止、③セリ・入札販売の原則(=相対販売の禁止)、④自己計算による卸売の禁止、⑤卸売業者による第三者販売の禁止、⑥仲卸業者の直荷引きの禁止、⑦全量即日上場(各市場業務条例)、⑧受託手数料以外の報償の収受の禁止(=定率手数料の原則)、⑨卸売の相手方としての買受けの禁止、⑩商物一致(=市場外にある物品の卸売の禁止)、⑪場外販売の禁止などがある。しかし、流通を取り巻く環境条件の激変に対応するために、1999年および2004年の2回にわたる卸売市場法の大改正によって、セリ・入札取引原則の廃止、商物一致原則の緩和、委託集荷規制の廃止・買付集荷の自由化、第三者販売・直荷引きの弾力化(省令対応)、卸売手数料の弾力化(2009年4月1日より施行)などが図られた。その結果、卸売市場流通の性格が大きく変質するようになり、「公正・公開・効率」が新たな理念として明示的に確立された。
3.水産物流通の変化
市場流通の地位を図る指標として、水産物の総流通量に占める市場流通の総取扱量の割合となる市場経由率がある。1985年に76.9%あった卸売市場経由率は、89年に74.6%、06年に62.1%、07年には60%台を割り、09年には58%へと低下の一途を辿る。市場経由率の低下は、すなわち市場外流通の伸長を意味するものであり、水産物流通においては卸売市場の地位低下現象は否めない事実として確認できる。
卸売市場流通の地位を低下させた原因として、スーパーなどの量販店や外食産業の大型化による小売構造の激変、日本企業の海外進出、輸入水産物の急増、外食資本や流通資本による市場参入、食品産業の伸長、物流技術やPOS(販売時点情報管理システム)・VAN(付加価値通信網)、EOS(電子式補充発注システム)など情報技術の進展、それらの結果としての「食」と「農(漁業を含む)」との距離の拡大などが挙げられる。