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53-食品の腐敗・変質
食品が腐敗、変質して食べられなくなってしまうことは、頻繁に経験する。その原因の主な原因は①微生物の繁殖による変質、②食品中の酵素による分解などの作用、③酸化などの化学作用、④乾燥などの物理作用、⑤青果物では、呼吸や蒸散など食品自体の生理活性作用、が挙げられる。微生物の繁殖や食品中の酵素反応、化学反応による。逆を言えば、微生物の繁殖と②〜⑤の生理化学あるいは物理反応を阻止すれば、腐敗や変質を防ぐことができる。ここでは、腐敗に関わる微生物について、その繁殖の抑制について学ぶ。
また、①~⑤は、水分、温度、酸素などの環境条件を制御することで、品質の保持が可能となる。昔からの、農産物を乾燥したり、塩漬けしたりする保存の知恵は、これらの微生物環境の制御に他ならない。保存の知恵は、現在の食品加工技術にも活用されている。
1.微生物による食品の腐敗
食品が可食性を失う現象には「腐敗・変敗・変質・酸敗」などの呼び名がある。ここでは、食品中で微生物が繁殖し、悪臭を放ち、食味が低下し、あるいは有害な産物を生成することを「腐敗」と呼ぶ。また、食品に微生物が繁殖した結果、もとの食品にはないおいしさや風味が生じることもあり、この場合は「発酵」と呼ぶ。発酵と腐敗は、人間にとって有益かそうでないかによって決まる。
(1)腐敗に関与する微生物
食品の腐敗に関与する微生物は多種多様である。食品成分を栄養素として増殖し、その結果食品が食べられる状態でなくなれば、それに関与した微生物はすべて腐敗細菌である。その意味で腐敗に関与する特定の微生物がいるわけではない。しかし、例えば海産の魚介類であれば、それらの魚介類に生息していた微生物の多くは腐敗を引き起こす。また、これらの魚介類に流通や加工の過程で微生物が付着して増殖した場合も腐敗が起きる。表1に主な腐敗微生物を示す。
細菌 | シュードモナス、アクロモバクター、アルカリゲネス、フラボバクテリウム、バチルス、ミクロコッカスエシェリシア、セラチア、ビブリオ、プロテウス、サルシナ、クロストリジウム |
酵母 | サッカロミセス、ピキア、トルロープシス |
カビ | ムコール、リゾープス、アスペルギルス、ノイロスポラ、クラドスポリウム |
食品の成分を栄養に増殖した微生物は、食品の成分に化学変化を生じさせ、自己にとって必要なエネルギーや物質を手に入れるが、その過程で不要になった物質を排泄する。これらが悪臭を放ち、味を悪くし、時には有毒である場合もある。タンパク質、アミノ酸などからは、表2に示したようにアンモニア、硫化水素、メルカプタンなどの悪臭を放つ物質や、アミン類などの有毒物質が生成する。
炭水化物→糖類→有機酸、アルデヒド、アルコール→二酸化炭素 |
脂質→脂肪酸、グリセロール→アルデヒド、ケトン、低級脂肪酸 |
タンパク質→ペプトン、ペプチド→アミノ酸→アンモニア、硫化水素、メルカプタン、アミン類 |
(2)腐敗の防止ー微生物の増殖阻止
腐敗は、微生物の増殖によって起こるのだから、何らかの方法で微生物の増殖を阻止すれば腐敗は防ぐことができる。もっとも確実な方法は、増殖する前に微生物を殺してしまうことである。レトルト食品や缶詰などはその典型的な例であり、微生物の完全な死滅(殺菌の一種であり特に滅菌という)によって目的を達成しているといえる。しかし、食品の場合、常に滅菌が可能である訳ではない。そこで、いろいろな程度の殺菌あるいは増殖を阻止したり抑制したりする方法が用いられる。表3には、腐敗防止法としての殺菌および増殖抑制法を示した。現在の食品加工技術は、まさに微生物の増殖阻止のための技術と言えるが、次項以降、食品保存の技術を学ぶ。
備考 | |||
殺菌 | 熱 | 低温殺菌 | 100℃以下での殺菌、通常63〜75℃程度 |
高温殺菌 | 100℃以上での殺菌、温度により細分される。 加圧することもある | ||
薬剤 | 各種殺菌剤 | ||
食品添加物 | 殺菌作用のあるものと増殖抑制作用があるものがある | ||
電磁波 | 紫外線 | 260nm前後、食品内部には達しない | |
放射線 | 日本ではジャガイモ発芽抑制にのみ認められている | ||
増殖の阻止と抑制 | 水分制御 | 乾燥 | 自然乾燥、熱風乾燥、フリーズドライ |
塩蔵・糖蔵 | 水分活性を低下させる | ||
燻煙 | 燻煙に含まれる殺菌成分による効果と乾燥の効果 | ||
温度制御 | 冷蔵 | 通常-2〜10℃程度、微生物の増殖は低下する | |
冷凍 | 通常-15℃以下、微生物の増殖は止まる | ||
温蔵 | 通常65℃以上、多くの微生物の繁殖阻止 | ||
酸素制御 | 真空包装、窒素充填包装、脱酸素材 |
2.油脂の酸化による変質
食用油や油脂を多く含む食品は、時間が経つと油脂が変質・劣化し、不快な匂いや味を示すことがある。油脂の劣化は油を使用した加工食品を保存する場合に注意を要する「酸化劣化」と天ぷらなど加熱を繰り返す場合に問題となる「重合劣化」に分類される。
①酸化劣化:油が酸化すると、分解物として脂肪酸や過酸化物が生成する。その他に酪酸やメルカプタンなど多種類の物質が生成されるが、これが悪臭の原因物質である。酸化が進んだ油は、悪臭だけでなく、やがてヒドロペルオキシドなどの有害物質も生成される。
油脂は、徐々に空気中の酸素と反応して酸化する。この油脂の酸化に最も影響するのが「直射日光」で、蛍光灯の光でも徐々に酸化は進むため、油で揚げた食品は遮光して保存することが必要である。また、次に影響が大きいのが「銅イオン」であり、銅鍋は一度「空焼き」をして表面に酸化被膜を作り、銅イオンが油に溶出しないようにすると良い。(また、ピーナッツのように油脂を多く含む食品も遮光してなるべく低温で保存すると酸化を防ぐことができる。)②重合劣化:天ぷらなど再加熱を繰り返すと油の分子が繋がる「重合」が進む。油の粘度が高くなるとカラッとした揚げ物ができなくなる。また重合が進んだ油は高分子になり、腸管からの吸収も悪くなるため栄養価が低下する。