本文へ

ホームミールマイスター WEBテキスト ロゴ(一社)日本惣菜協会

ホームミールマイスター WEBテキスト

HOME MEAL MEISTER 07食の文化と環境


83-箸と食生活

箸食の国は世界人口の約30%といわれる。箸食の国の中で、他の国はスプーン状のものを併用するが、日本は食事を最初から最後まで箸だけで完結する唯一の国である。また、人生の行事に箸を用いたり、ことわざにしたり、作法も細かく、精神性を加味している日本の箸文化は独特といえる。

海外では和食の人気が定着するとともに、箸づかいが教養の指標の一つといわれるほど、上手に箸を使って食事をする外国人も珍しくない。一方で、正しく箸を持てない日本人は国民の7割を超えるといわれる。背景は、食生活の変化や家庭内の食卓内におけるしつけの変化などさまざまである。

しかし、箸を正しく持てるようになることで、食生活改善や性格や行動の変化がみられる、会食で自信がもてるなどの生活への良い作用が期待される。ひいては食料自給率や伝統的な料理や食品の消費量にも変化の可能性が考えられる。すなわち、箸を知ることは、食や日本らしさを確認することになる。次世代に是非伝えたい文化である。

写真

図1 箸の持ち方 (写真提供 日本箸文化協会)


正しい箸の持ち方をすれば、余分な力を加えずに料理を持つことができる。逆にいえば、正しく持てていないと、ご飯粒や一尾の魚などの細かな料理をきれいに食べることは難しい。また、箸の持ち方は鉛筆の持ち方にも連動しており、近年は鉛筆を正しく持てない子どもも増加している。この関係も大きな課題である。自分では正しい持ち方と思っていても、実は不確かな持ち方であることが多い。改めて正しい持ち方を確認してみよう。


日本に数十種類ほどある「嫌い箸(マナー違反とされる箸の使い方)」は、単なる決まり事のマナーとしてではなく、料理や環境への感謝する心を表現したり、仏事の理由や人生訓であるなど、嫌い箸には多くの教えが込められていると思われる。嫌い箸を心がけるだけでも、おのずと箸づかいのマナーはできてくるといえよう。

<嫌い箸の例>

♦振り上げ箸 箸で人を指すように振る ♦押し込み箸 料理を箸で口の中に押し込む
♦わたし箸 茶碗など食器の上を箸でわたして置く ♦重ね箸 一つの種類の料理だけ食べる
♦とんとん箸 トントンと箸を垂直に落として揃える ♦刺し箸 箸でつかみにくいものを突き刺す
♦にぎり箸 箸を握ったまま器を持つ ♦なみだ箸 箸からお醤油やつゆをたらす
♦もぎ箸 箸で口の料理をもぎ取る ♦さぐり箸 盛り合わせ料理や、汁の中のものを探す
♦よせ箸 箸を使って器を引き寄せる ♦なめ箸 食べる前に箸をなめる
♦移り箸 一度箸で取りかけてやめて、他をとる ♦横箸 2本揃えてスプーンのようにすくう
♦迷い箸 どれを食べるか迷い、箸をあちらこちらに動かす ♦かき箸 茶碗の縁に口を寄せ、箸でかき込む

割り箸は、種類が細かく分かれていてそれぞれ意味があるので、TPOによって使い分けることが必要である。惣菜の特徴や価格や調理法によっても使い分ける目をもちたいものである。

例えば、「天削箸(てんそげばし)」は上部が斜めにカットされ、おもてなしや正式の場にもふさわしい割り箸とされている。この形には「天に向かって食事を神様とともにいただく」という意味もあるようだ。

しかし、割り箸は「縁を割る」といったイメージから、結婚式や慶事の席ではあまりふさわしくないとされている。代わりに、結婚式や慶事には柳の木でできた「祝い箸」を使用する。「祝い箸」は両方の先端が細くなっていて「両口箸」とも呼ばれるが、これは一方を神様、もう一方を人が使うためで、「神人共食」を意味している。すでに二本に箸が分かれているので割り箸ではなく、柳の木は丈夫で枯れないため、健康を祈願して正月に使ったり、また丸く削られているのは「丸く生きる」といった意味がある。

割り箸は、元来は日本で生まれたが、近年はその9割以上が輸入されており、国内で消費されている割り箸のうち約97%が中国産を主とする輸入品となっている。今も国産の割り箸では、廃材を利用して手作業で作られているものもあり、リサイクルとしての歴史もある日本の伝統文化の一つなのである。

写真

写真 左:天削箸 右:祝い箸