HOME MEAL MEISTER 07食の文化と環境
88-食育
1.食育という言葉の起源
「食育」という言葉は明治時代に遡る。開国と同時に西洋の物や人が入ってくると、新政府はその進んだ科学や文明を学ぼうという動きになった。その1つとして「人材育成、教育」を重点施策としたため、学制が整い、教育ということに関心が高まる時代であった。その際、英国のハーバート・スペンサーが説いた「教育の基本は、知育・徳育・体育の三育である」という考え方が普及していく。日本でも翻訳された同氏の教育論の中では、体育の章で、食事が大切であると触れた部分がある。
その後、軍医でもあった石塚左舷(さげん)が「食養」という考え方を提言し、著書の中で「体育智育才育は即ち食育なり」と説いた。その後、村井著の『食道楽』という小説の中で、「小児には知育・徳育・体育よりも食育が優先される」とも書かれている。
この時代には、栄養学という概念も普及しておらず、食品の選択肢も乏しかったと思われるが、これらの人々が説いた食育は、現代の飽食の時代に起こる食の様々な課題を見越していたかのような先見性ある教訓である。
2.食育基本法
1章で述べたように、家族形態やライフスタイルの変化を背景に、私たちの食生活も大きく変化してきた。食の外部化が進み、生産や加工・調理の場が、消費の場と遠く離れてしまったことで起こる問題、また4章で述べたように、栄養のアンバランスや十分な運動をしない生活から健康上の問題を引き起こす生活習慣病の問題など、食生活に起因する社会的な問題も少なくない。
そこで、2005年に制定された食育基本法では、食育を「様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること」とし、消費者、教育機関だけでなく、行政、企業を巻き込んで推進していくことを食育の目的としている。
3.食育推進のための新しい課題
農林水産省では、推進会議を置き、5年ごとの数値目標を立てて食育の推進を図っている。食への関心を高め、食への理解を深めること、規則正しい食生活と健康づくりが目的であることには変わりないが、2016年からの第3次推進計画では、当初の「若い世代への食育」に加えて、「高齢者や貧困の状況にある子どもたちへの食育」にも力を入れている。また、「生産から消費の流れを理解して食品ロスを低減する」こと、また和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを受けて、「和食や地域の食の伝承」も新たな重点項目としている。(図1)
図1 食育実践のためのプログラム
(出典:農林水産省「食育実践ガイドブック(食育実践者モニターアンケート、平成27年1月)」)
4.惣菜産業としての食育
「食の外部化」が進むなか、惣菜産業は「家庭内調理の代行業」として、健康で豊かな食生活を手助けするという役割を担っている。同時に、惣菜店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアの惣菜売り場など、消費者との接点が多い事業でもある。その機会を利用して、売り場で食の情報を消費者に伝える役割をもつ「デリカアドバイザー」という人材育成を、日本惣菜協会では行っている。また、ここで学ぶ「ホームミールマイスター」の資格も、多様化する食生活の中で、正しい食の知識を学ぶ目的で実施している。マスメディアやインターネットなどでの断片的な情報の収集だけでなく、これらの資格制度で体系的な食の知識を身につけ、売り場や家庭、地域などでも、食育普及の一役を担ってもらいたいと考える。
また、惣菜産業に関わる多くの企業が、各種パンフレットやウェブサイトの作成、料理教室や体験イベントなどを通じて食育活動も行っているので、ぜひ関心をもって見て、参加をしてもらいたい。
<参考文献・HP>
- 農林水産省「食育基本法」
- 「我が国の食生活の現状と食育の推進について」
- 「食育実践ガイドブック」
- 石塚左舷「化学的栄養食養長寿論」明治29年博文館
- 国会図書館デジタルコレクション