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HOME MEAL MEISTER 03調理と衛生


34-味覚や五感を養う

(1)嗅覚からのおいしさ、匂い

匂い*1は、おいしさに大きな影響を及ぼす。例えば、肉の焼けた香りやカレーの刺激的な香りがなければ、おいしさは半減どころか全く違ったものになるのではないだろうか。また、香りは私たちの生存の意味でも大事な役割を果たす。食べても安全かどうかを見極める際に、食品の匂いを嗅ぐことがある。

舌に味蕾(みらい)があって味を感じることができるように、鼻の上部に嗅上皮(きゅうじょうひ)と言われる部分が、匂いを感じる器官があり、ここで、鼻あるいは口中から空気と共に運ばれる匂い物質に反応し、匂いを感じている。

食品には食品固有の香りがあり、特に野菜、ハーブやスパイス、果物など、植物性のものには実にバラエティ豊かな香りがある。また、調理や発酵などのプロセスを経て、香りが生成されるものがある。食品固有の香りには好き嫌いがあり、発酵による匂いも、食文化的側面で嗜好が大きく分かれるところである。食品の匂いの中でも、好まれる香りの一例は、食品が焼ける香り(鰻のかば焼き、焼き鳥、パンの焼ける香りなど)であろう。これらは、食品中のアミノ化合物と糖が加熱によりメイラード(アミノ・カルボニル)反応というもので、独特の茶色い焼き色と香ばしい香りが生成する。

(2)触覚からのおいしさ、食感

味に加えて、食べ物にはいろいろな食感がある。食感とは、2章-33の図1にあるテクスチャーに相当する、ごはんの粘りやパイのサクッとした感覚のことである。いろいろな言葉で表現される食感は、見た目から感じるもの、箸やフォークを入れた時に感じるものなど、食べる前から感じるものと、口に入れた時の感触、咀嚼の際の噛みごたえ、口どけ、飲み込む時の感覚など、感じる場面、感じ方も様々である。

(3)視覚からのおいしさ

食品のおいしさには、見た目が、非常に大きな影響を及ぼす。デパ地下惣菜の美しいディスプレイ、また料理の盛り付けは、見ているだけでおいしいと感じる。色のバランス(五色*2をバランスよく)、光沢や形状、大きさや高さ、また季節感などもおいしさの重要な要素である。

(4)聴覚からのおいしさ

耳からの刺激もまた食欲をかきたてるものである。鉄板で肉がジュージュー焼ける音など、外食業界では、客の目の前で熱くした鉄板にソースをかけて、音を楽しませる工夫をしている店も多い。

*1 匂い

「匂い」という表現は、幅広い意味を指す。心地よい匂いを「香り」といい、不快な匂いを「臭い」と使い分け、総合して「匂い」と呼ぶ。

*2 五色

「赤・緑・黄・白・黒」の五色のバランスが取れているとよいとされる。和食には、五味五色五法という言葉もあるが、味、色、法(生、煮、焼、揚、蒸の調理方法)をバランスよく取り入れるのが良いと言われる。


おいしさの感じ方は、温度により大きく左右される。舌で最も味を感じるのは30℃付近とされている。煮物など、温かい時と冷めた時では味の濃さがかなり異なる。表1に飲み物を中心に最適な温度を示しているが、気温・湿度、食品の状態、あるいは個人の嗜好にもよる。

表1 食品の種類と嗜好温度(出典:河村洋二郎「食欲の科学」)

食品名 嗜好温度
10~15℃
冷麦茶 10℃
ビール 10~20℃
清酒のお燗 50~60℃
ホットコーヒー 67~73℃
アイスコーヒー 6℃
味噌汁 62~68℃
うどん 58~70℃

食べ物の味は、味わう時の体調や食べる人の嗜好により異なる。「空腹は最上のソース」という言葉の通り、お腹が空いて食欲のある時には、よりおいしさが感じられる。特に消化管との関係も深く、唾液、消化酵素の分泌も活発になる。また、口腔内の状態、あるいは、心理的な状態にも、味は大きく影響される。

年齢や食文化・食歴*3・経験により、食べ物の嗜好は大きく変わる。今まで食べたことのない食べ物を食べるのは大変な勇気がいるように、意外と食は保守的で、子どもの時から慣れ親しんだ味が好まれるという。また地域の食文化による違いも大きいし、世界的な視点にたてば、宗教的な理由から好まれない食品も数多い。

*3 食歴

食の歴史。個人が生まれてから、どのような食生活を送ってきたか。子どもの時の食歴、つまり嗜好が、大人になってからの食生活、つまりは栄養状態に大きく影響する。


情報社会の現代、食にまつわる情報も非常に多い。売り場を見ても表記すべき情報の他に、「こだわりの」とか「限定品」など、おいしさを増長するような情報がたくさん溢れている。また、メディアやインターネットから入る情報も多い、頭に入った情報で、既に味わった感がある現代社会である。また、店員のおすすめという情報のインプットによっても、おいしさは増幅する。


<参考文献>
  • 日本化学学会監修 渡辺正、桐山光太郎:「味の秘密をさぐる」丸善(1996
  • 河村洋二郎他:「食欲の科学」医科歯科薬出版(1972)
  • 栗原賢三:「味覚・嗅覚」化学同人(1990)
  • 都甲潔:「食と感性」光琳(1999)
  • 伏木享:「コクと旨味の秘密」新潮新書(2005)
  • 伏木享・山極寿一編著:「いま「食べること」を問う」農文協人間選書(2006)

<参考HP>