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54-品質保存のための水分制御
1.食品中の水分と水分活性
あらゆる食品は水を含んでいるが、この水は「結合水」と「自由水」の2つに分けられる。結合水とは糖質やたんぱく質、その他多くの食品を構成する成分の粒子表面に強く結びついた水のことで、食品としての構造の維持に役立っている。この結合水は微生物の生育に利用することができない。
一方、自由水は、食品成分の間隙に存在して自由に動き回ることができる。微生物が生育するために利用したり酸化や褐変などの化学反応に関係したりすることができる水は、この自由水に限られる。同じ水分含量の食品でも食塩を多量に添加すると自由水の割合が減少し、腐敗しにくくなる。つまり、食品の保存性は、その食品に含まれる全水分量よりは自由水の存在状態が重要なカギとなる。
食品中の水のうち、自由水の割合を示す値を「水分活性(Aw: Water Activity))」といい、食品の保存性の指標としている。純水のAw値は1である。図1にさまざまな食品のAw値を示すが、食品に含まれる自由水には糖質や塩分などの可溶性物質が溶け込んでいる。溶け込む物質の量が多くなるにしたがって、この食品のAw値は低下する。
図1 さまざまな食品のAw値
2.水分活性と食品の品質保持
図1の各種食品のAwを見ると、鮮魚、肉、野菜などの生鮮食品のAw値は0.9以上あり、微生物の繁殖により腐敗しやすい。逆に粉乳や乾燥野菜などのAw値は0.2程度であり、これらは吸湿に注意する必要がある。
微生物の生育最低Aw値は、微生物の種類によって異なる値を示す。一般的な細菌では0.91、酵母では0.88、カビで0.80程度である。通常の食品変敗細菌では0.94~0.99、食中毒菌のサルモネラ0.940、病原大腸菌0.935、ボツリヌス菌0.94~0.97、黄色ブドウ球菌は少し低く0.860などである。これより以下になるとその微生物は生育しなくなる。しかし、好塩性細菌、耐浸透圧性酵母、乾性カビなど一部の微生物はさらに低いAwで生育が可能である。味噌、醤油、漬物などの発酵食品はこの現象を利用して製造されているといえる。
微生物の繁殖だけでなく、食品成分の褐変・退色や酸化、ビタミン類の破壊、食品の吸湿・乾燥も水分活性に影響される。食品の品質保持と 水分活性との関連を要約すると、多水分系食品(Aw値0.91以上)では、主に細菌等による腐敗・変敗、中間水分食品*1 (Aw値0.90~0.65)とは、酵母やカビの増殖、脂質の酸化や変色、乾燥食品(Aw値0.65以下)では、食品中の水分の吸湿・乾燥が重要な変質要因となる。
*1 中間水分食品
食品工業の世界では、生鮮品などの水分が多い食品と乾燥食品との中間の食品を「中間水分食品」と呼んでいる。水分が多く口当たりのよい食感や風味を保ちながら、腐敗を起こす微生物の活動を抑えるレベルまで水分活性値を下げて、保存性をもたせているのが中間水分食品の特徴である。しかし、最近の健康志向や消費者の嗜好は、低塩や低糖の方向へ向いており、塩分や糖分が低濃度でも水分活性値を低下し、食味のよい食品にするために、新たな素材の開発が進んでいる。現在では、グリシン、乳酸ナトリウムなどの有機酸、還元水あめ、ソルビトールなどの糖アルコールがよく使用されている。
3.伝統的な乾燥食品
日本では、伝統的に乾物という乾燥食品が多用される。乾物は、保存性が増すだけでなく、栄養やうまみが凝縮し、生の食品にない味わいや食感を生むものが多くある。魚の干物では、単に塩蔵するだけでなく、たんぱく質がアミノ酸に分解され、独特のうまみが生まれる。表1に主な乾物と保存可能な期間を示す。
表1 主な乾物と保存可能な期間
保存可能な期間 | 乾物 |
1〜3ヶ月 | 魚の干物(冷凍で)、干し芋、干し柿、ドライトマト |
3〜6ヶ月 | 干しえび、高野豆腐、切り干し大根、ドライフルーツ |
半年〜1年 | 切り干し大根、かんぴょう、いりこ、海苔・わかめ、麩 |
1〜2年 | 干ししいたけ、寒天、春雨、 |
2年以上 | 昆布、ひじき、凍みこんにゃく |