HOME MEAL MEISTER 06食品の表示・食の情報
80-科学的な判断基準を持つ
1.食品の情報をめぐる現状
食品の安全性や、機能性(健康効果)を巡って、様々な情報が氾濫しているが、中には間違っているものが少なくない。例えば「化学調味料は体に悪い」という説があった。1968年、学術誌に「中華料理を食べた後に頸部と腕のしびれ、脱力感と動悸が起きる例がある」との報告が掲載され、料理に使われるグルタミン酸ナトリウムが原因ではないかと疑われ、「中華料理店症候群」と名付けられた。しかし、その後の科学的な調査や研究によってこの説は完全に否定された。グルタミン酸ナトリウムは、国連機関や米国、EU、日本など各国の食品評価機関から安全と認められている。しかし、いまだに「化学調味料を使っていないから安全・安心」などと宣伝する企業が目立つ。
また、様々な食品が「抗酸化物質を多く含み、健康にいい」と、テレビや週刊誌などで報道される。その一方で「効果がない」とする研究結果や大量摂取によって発ガン性が上がるなど負の影響を報告した学術論文も出ている。だが、そうしたものは無視され、宣伝効果をもたらす「よい」とする情報だけが流される。
2.多くの情報が抱える科学的な問題点
食品の安全性や機能性について伝えられる情報は、科学的には次のような問題点を含む場合が多い。
(1)「天然だから・・」「昔ながらの・・」は、情緒に訴える言葉
科学的根拠(エビデンス)があるのか、それも、ひとつではなく複数あるのか。
(2)古い情報を更新していない
一見、科学的な情報を装うが、食品の研究が進むスピードは極めて早いにもかかわらず情報を更新せず、古い情報を発信している。
(3)動物や細胞を用いた実験結果を、人での結果と同じように扱う。
(4)摂取量を無視した情報
食品成分の安全性や機能性は、摂取量によって大きく異なるという科学的事実を無視し、摂取量を抜きにして情報を流す。
(5)一部の研究者の研究や論文を取り上げて扱う。
他にも同様の研究がないか。他の機関による追試験などがなされてないのか調べてみる必要がある。
食品の健康効果に関する情報は今でもマスメディアで頻繁に取り上げられるが、(1)~(5)までの問題をクリアできるものは少ない。
3.フードファディズム
食べ物や栄養が健康や病気へ与える影響を、過大に信じたり評価したりすることを「フードファディズム(Food Faddism)」と言う。米国で提唱された概念で、群馬大学名誉教授の高橋久仁子氏が日本に紹介した。
フードファディズムは、科学的根拠がないため様々な弊害を招く。高橋教授によれば、ヘルシーと言われる食品の食べ過ぎによる肥満を招いたり、「健康食品」として売られる食品による健康被害が起きたりしている。また、悪いとされる特定の食品を家族で排除した結果、子どもの成長に支障を来すケースもある。高橋教授は「それさえ食べれば健康が確約されるマジックフーズも、逆にそれを食べると病気になる悪魔フーズもない」と指摘している。
4.食品を製造、販売する者、消費者に求められること
フードファディズムを、マスメディアだけでなく食品企業や流通、販売業者が助長している、という見方がある。情報番組で、「○○は高血圧によい」などと取り上げられると、その情報が正しいのかどうか吟味されないまま、その日のうちに売り場に掲示されたり、宣伝に使われたりする。それを信じて消費者は購入する。
そうした販売にはリスクもあることを知っておきたい。1990年代、ココアがガンや生活習慣病を予防するとテレビ番組などで取り上げられ、販売時にも盛んにPRされた。しかし、ココアを飲む時には牛乳や砂糖も大量に摂取することになるため、開業医の中から「ココアを飲み続けたために、高血圧や糖尿病の悪化を訴えた人がいた」という指摘も出た。
製造、販売者も、消費者も、溢れる情報に流されず、都合の良い部分だけを利用することも慎み、適切に行動することが求められる。
<出典>
- 佐々木敏「佐々木敏の栄養データはこう読む!」(2015)女子栄養大学出版部